2015/06/21

語りかける木


「庭を作ろう!」というタイトルの絵本を買った。
ある家族が庭付きの一軒家に引っ越し、荒れ果てた庭を
丁寧に再生していく、とっても温かいお話。
その庭には、樹齢100年くらいの大きな林檎の木があって、
家族が引っ越してくるまでは、ぽつんとそこにあるだけで、
誰からも見放された木。
その家族が丁寧に手入れをして、ある日その木の根元で寝ていた少年に
話しかける。その木が今まで見てきたことや、気持ちを。
そのお話を読んで思い出したこと。

このブログの頭にも載せてるのだけど、
2年前、Hammerssmithの駅からテムズ河に向かって散歩してた時、
車通りの激しい道路脇の緑地に
ひっそりと満開の花を咲かせる八重桜があった。
あまりにも美しくって、自然と心が惹かれて
写真に撮らなきゃって思って、シャッターを切ったことを覚えている。

後に日本に帰って、filmを現像して、何人かの友人にロンドンの写真を見せたんだけど
そのうちの二人が、
「この木、存在を気づいてもらって、とても喜んでる。とても寂しかったみたいね」
って言った。

私すごく嬉しかった。
こんなに目一杯、きれいな花を咲かせているこの木に、
日本からたまたま来ていた私が巡り会えたことに。

何十年もいろんなことを見てきたんだろうなって思った。
そして、一昔前の人たちの姿が浮かんできた。
どんな気持ちで植えたんだろうかって。
もう植えた人はきっとこの世にいないだろうなって思うと
その時間が風のように私に迫る感じがした。

けれど、その桜は静かに花びらを散らして、
また一年、また一年と、存在しているんだな。


2015/06/15

UFOと犬の映画の思い出。

そういえば

ちょうど去年の今頃、思い立ったように九州に行った。
夜行バスに乗って、熊本まで行く。
朝5時の下関の橋は、朝霧の中、とてもでかくて、
そのでかすぎる存在が夜行バスに揺られ疲弊した体に
迫ったことを覚えている。

熊本に住む友人と待ち合わせて、阿蘇に行った。阿蘇はこれで4回目。
とても好きな場所。
雲がやや多い、でも気持ちのよい空だった。なんとなくぶらぶらとドライブをして辿り着いたのは、
押戸岩という、縄文時代に作られたとされる巨石群。小高い丘に浮かび上がる。
UFOの目撃スポットだともいう。私はムーの回し者ではないけれど
オカルト好きにはたまらないスポットだろうな。
ただめちゃくちゃ気持ちのいい場所だった。


縄文ロマンの余韻に浸りながら
友人が阿蘇火口付近まで連れて行ってくれたが、中国人や韓国人の観光客で溢れていて、
霧のせいで視界も悪く、その上植物の生えない火口付近は、人間以外の生命の存在を感じず、
さっきのUFO話も相まってか
20XX年、たくさんの地球人が観光にきましたよってな雰囲気だ。
そんな中で一瞬自分の居場所が宙に浮いたような気分だった。

熊本を去って、一人になった。
音楽があるからよかった。一人の旅は好きだけど、
時々寂しさを感じる。結局そのナルシズムが好きなんだな。
その足で宮崎に行き、猫の額ほどの広さしかない
ビジネスホテルに泊まる。部屋の窓から見えるのは、隣のビルのコンクリートの屋上。
洗濯物も干してある。
所々ひび割れていて、空気の汚れで黒ずんだ場所もある。
高圧洗浄機で一掃したいくらいだ。
そんなことを思ったら、余計孤独になった。
そして眠りにつく頃
幽霊のことが頭から離れず、怖くなったから、テレビをつけて無理矢理に寝た。

次の日は高千穂に行ったのだが、よかったけど、
かの有名な高千穂峡より、さびれた街の雰囲気の方が印象にある。
マラソンという(店主の趣味がマラソンだから、その名前がついているんだと思う)うどん屋で
うどん食べたとか、そんなに魚に興味もないのに
入場料300円の淡水魚水族館に入ってみて、一生懸命自分のモチベーションをあげようとしたとか。
しかしさびれた街の雰囲気にどんどん心がひっぱられていく。
そんな感じでいつの間にか帰りのバスに乗った。

結局心に残ったのは、その帰路博多行きのバスの中でやっていた
犬の映画。
保健所の犬と保健所の職員が心を通わす話。
見た瞬間結末がわかりそうなありきたりなお話だと思って
イヤホンもつけず、見ていたから無声映画。
しかし犬のお涙頂戴には、弱い。犬が演技するんだもの。
そして私は犬が好きだ。
見知らぬ土地で、一人自分の体がバスに運ばれている状態と
流れる景色と規則的な道路のライン。
どんどん暗くなる山道の中、そのシチュエーションが、化学反応を起こして
不覚にも泣いてしまった。
エンディング曲はSpritualizedのladies and gentleman we're floating in space てなところで。